エネルギーコモディティは変動が激しいことで知られていますが、不安定な再生可能エネルギーの増加により、世界の電力市場はさらに予測が難しくなっています。
国際エネルギー機関(IEA)は、2026年までに増加する世界の電力容量のうち、そのほぼ95%が再生可能エネルギーで占められると予測しています。オーストラリアは、このクリーンエネルギーへの転換の模範となる国です。太陽光と風力に牽引され、2021年のオーストラリアにおける発電量のうち32.5%が再生可能エネルギー由来となっています。同国政府は、2025年には50%、2030年には69%を超えると予測しています。
トレーダーから発電事業者、大規模な産業事業者まで、資産ベースのエネルギーコモディティ・エクスポージャーや、地域卸売市場への参加による卸売市場エクスポージャーが大きい企業では、最新のエネルギートレーディング・リスクマネジメント(ETRM)ソリューションが必要です。ETRMは、再生可能エネルギーが有する不安定な特性により、ますます動きが加速し、複雑化する電力市場における運営を管理するとともに卸売スポット市場への参加やその他の活動を支援します。
しかし残念ながら、電力市場の特性の変化により、現在多くの電力会社、電力卸売業者、エネルギー取引業者が使用しているETRMシステムでは対応しきれない問題が生じています。
エネルギー業界におけるETRMの現状
ETRMソリューションは、エネルギー産業が再生可能エネルギーへの急速な移行を経験したのと同様に、過去10年間でデジタル革命を遂げました。
オンプレミス型のレガシーETRMやスプレッドシートベースのシステムもまだ企業オフィスで使用されていますが、エネルギー業界ではオンプレミス型からプライベートクラウド型、あるいはSaaS型ETRMシステムへの移行がますます進んでいます。この移行は、企業にとってビッグデータとデジタル化が急務であり、変化の激しい市場で成功するための唯一の方法であることを背景にしています。
しかし、2010年代には多くのエネルギーコモディティ価格が暴落し、利幅が圧迫されたことを受け、多くのETRM構想が中断、また、コスト削減のため規模も縮小となりました。それは、再生可能エネルギーの導入等の急速な市場変化により、最新のETRMがより不可欠になりつつある頃でした。
今日、エネルギーコモディティに特化した事業所で使用されているETRMは、旧式のものや、オーダーメイドのものから最先端のものまで、いくつかのカテゴリーに分類されます。
- スプレッドシートベースのシステムは、一般的に自社で開発されたもので高度なデータ分析などの最新機能は限定的となっています。
- レガシーなオンプレミス型ETRMは、数十年前にトレーディング事業者が開発し、そのシステムを商品化して他のコモディティ関連企業に販売したものが多く見られます。一部の商品については、これらのETRMが長年にわたって企業に貢献してきた堅牢な機能一式を提供することができます。しかし、これらのレガシープラットフォームの技術構造は古いため、エンタープライズ リソースプランニングなどの他のシステムに統合することが難しく、コストもかかります。また、高度な分析に使用するためのデータセットのロック解除が不可能な場合もあります。
- 次世代のオンプレミス、またはプライベートクラウドベースETRMを活用により、より効率的なオペレーションを実現し、リスクに対する理解を深めることが可能です。さらに、リアルタイムレポート、予測、分析機能等、現代のデジタル化における多くの利点が得られます。しかし、多くの企業は、プライバシーやセキュリティに関する懸念から、レガシーなオンプレミスまたはプライベートクラウドベースETRMを使用する傾向があります。
- ETRM SaaS(サービスとしてのソフトウェア)では、インターネットブラウザさえあればどこからでもアクセスできるソフトウェアをサービスとして提供し、サブスクリプションベースで販売しています。高額な初期費用、継続的なメンテナンスの手間、技術の陳腐化という問題が重なり、ETRMシステムの購入者はサービスをベースとした革新的なビジネスモデルへと移行しています。その結果、コロナ禍にも後押しされ、クラウドベースのSaaS型C/ETRMソリューションが従来のデリバリーソフトを追い越す勢いとなっています。
再生可能エネルギーPPAが将来のETRMニーズを形成
風力発電や太陽光発電のコスト競争力が世界的に高まるにつれ、各国政府は固定価格買取制度のようなインセンティブ構造から脱却しつつあります。例えばオーストラリアでは、太陽光発電の固定価格買取制度が低水準であることに消費者から苦情が殺到し、電力規制当局がそのような制度は市場にとって「価値が無い」という立場をとっています。
このような流れを受けて、発電事業者や再生可能エネルギー開発事業者は、再生可能エネルギープロジェクトの資金調達や運営に新たな仕組みを求めるようになり、長期PPAが有力な選択肢として浮上してきました。Business Renewables Center Australiaは2021年の報告書で、2021年10月現在、オーストラリアでは110件の公に確認された再生可能エネルギーPPAが、10.5GWの再生可能エネルギー容量をサポートし、その金額は44億ドルに上ると述べています。
最新のETRMは、受賞歴を持つ日立エナジーのETRMソリューションのように、取引の把握からリスクマネジメント、レポーティング、精算、請求に至るまで、PPA契約のライフサイクルをサポートする必要があります。さらに、Commodity Technology Advisory社は、市場参加者が以下のようなPPA特有の特性に対応できるソリューションを必要としていることを明らかにしました。
- 数量と価格の上限と下限設定等、複雑かつ均一でない可能性のある価格設定
- 生産予測を頻繁に更新し、実際のオフテイクや数量修正をインポートするための効率的な時系列および数量管理
- ヘッジやその他のポートフォリオ分析をサポートする柔軟なシナリオ機能
- 精算および関連する請求書発行プロセスの自動化
- 再生可能エネルギー証書(REC)など、PPA関連のグリーン証書を評価・管理する際、取引の把握からリスク、報告、レジストリ照合、決済、バックオフィスまで、取引ライフサイクル全体を通して行うことができます。
日立エナジーのSettlementTrackerのような専用ソリューションは、メーターデータ収集(MDA)ソリューションと組み合わせることで、PPAライフサイクルをサポートし、特に設備規模の小さい企業にとって、より安価で複雑さを軽減するソリューションとなり得ます。日立エナジーは現在、サウジアラビアの大規模な太陽光発電プロジェクトにこのようなソリューションを導入しており、アカウント決済システムを含むソーラーパフォーマンスを提供しています。
ETRMアップグレードを先延ばしする時代は過ぎ去った
新しいETRMを導入するための時間、労力、コストに関する先入観から、多くの企業がその投資を先延ばしにしてきました。しかし、急速に進化する電力市場に対応できない旧式のETRMを使用することにより発生するコストは、代替案をはるかに上回る可能性があります。
クラウドベースのETRMは、特にマルチテナント型SaaSとして提供される場合、参入コスト、総保有コスト、保守やアップグレードのコストの低さから、オンプレミスのソフトウェアと比較しても最もコスト効率の良い選択肢として浮上しています。再生可能エネルギーの設備規模が小さい新規参入者の場合、日立エナジーのSettlementTrackerのようなシンプルなソリューションを採用することで、再生可能エネルギーのオフテイク契約締結の自動化という分野へ、より低コストでかつ容易に参入が可能となります。
日立エナジーのエネルギートレーディング・リスクマネジメント(ETRM)に関する詳細はこちらから。