サプライチェーンや人材確保の問題から、ウクライナ戦争や自然災害まで、世界的な事象が絡み合い、経済全体のインフレや価格変動につながっています。エネルギーコモディティは、特にこのような現象が顕著に見られます。
例えばオーストラリアでは、最近、石炭のスポット価格が前年比243%増、電力卸売価格が141%増となりました。オーストラリア政府は、天然ガス価格の高騰を緩和するために、LNGの輸出制限を検討しているほどです。ヨーロッパでは、スイスのエネルギー会社BKWが、ドイツの電力卸売市場における価格上昇圧力を反映して、独立系発電事業者や民間事業者から送電される太陽光発電の1kWhあたりの報酬を400%以上も引き上げました。
最近、高騰していたエネルギー価格の多くは下がり始めていますが、このことは、エネルギーコモディティのエクスポージャーが大きい企業にとって、市場変動がエネルギー取引やリスク評価業務に与える課題の大きさを物語っています。また、電力のように現段階でも変動の大きい市場は、時間単位、あるいは分単位でさらに変動が激しくなっており、太陽光発電や風力発電の断続的な増加のため、さらに課題が大きくなっています。
発電事業者、エネルギー供給事業者、大規模な産業用エネルギー需要者は、最新のエネルギートレーディング・リスクマネジメント(ETRM)システムを活用することで、エネルギー市場のボラティリティー(変動性)を管理するためのフロント、ミドル、バックオフィス業務をサポートすることが可能です。
再生可能エネルギーと電化が生み出す、フロントオフィスからバックオフィスまでのETRMの問題点
電化や電気自動車の普及、再生可能エネルギーの断続的な需要増加により、ますます柔軟なETRM機能が求められるようになっています。しかし、前回のブログ「エネルギートレーディング・リスクマネジメントを自動化し、複雑なプロセスを軽減するためには」で説明したように、すべてのエネルギーコモディティ取引企業が、急速に進化する電力市場に対応し、ビッグデータとデータ分析の可能性を活用可能な最新のETRMを導入しているわけではありません。
最新のETRMを導入していない場合、市場のボラティリティーは、多くの組織におけるバックオフィスからフロントオフィスに至るまで同様の問題を引き起こす可能性があります。
例えば、フロントオフィス(トレーダー等)は、誤った判断につながる不正確な情報、リアルタイム分析の欠如、システム応答の遅延、自動化とシステム機能の欠如、データ検索の困難さ等を課題として捉えています。
ミドルオフィス(リスクマネージャー等)におけるETRMの問題点は、不正確なデータやその他のエラーによって予期せぬリスクや損失を招くこと、取引記録や市場リスクデータの標準化の遅延、リアルタイムではなくその日の終了時を意識したプロセス、ヘッジ会計要件を満たすための複雑な表示方法、内部手続きに起因する不要な処理・調査などがあります。
また、バックオフィス(決済アナリストや会計士等)は、バックオフィス業務の自動化が不十分、過度に複雑なプロセス、市場データの管理が限定的、決済価格の透明性が低い、新商品導入時にプロセスの更新や調整が困難、エラーが繰り返し起こるといった点で、ETRMによる問題を感じているようです。
市場変動の管理を可能にする、最新のETRM導入までの3つのステップ
各オフィス機能全体の問題の多くは、遅延、エラー、複雑で手動のプロセスが多すぎることに関連しています。再生可能エネルギーに依存する電力市場のように変動が激しい環境では、こうした問題点がもたらす潜在的な影響はさらに大きくなります。
日立エナジーのエネルギーポートフォリオマネジメント部門 グローバルセールスリーダーであるヒューゴ・スタッパーズは、次のように述べています。「世界がよりクリーンなエネルギーソリューションに移行するにつれ、再生可能エネルギーは石油や石炭などの化石燃料を追い越しつつあります。ETRMシステムを評価・選定する際、市場関係者が重視するのは、従来の化石燃料ではなく、これらのエネルギーコモディティをサポートする機能です。理想的なETRMシステムは、電気、天然ガス、バイオ燃料、エネルギー属性・排出権に優れ、暫定的に従来の商品にも十分な機能を提供できるものと言えます。」
再生可能エネルギーによる市場の変動といった課題に組織全体が対処できるよう最適化されたETRM導入を実現するためには、3つのステップを踏む必要があります。
- バックオフィスが何を作成する必要があるのか(報告、契約決済、証明書管理)を考えることです。バックオフィスのニーズを注意深く把握することにより、バックオフィスからフロントオフィスまで必要とするものをETRMから得られるという因果関係の考え方が確立できます。今日、バックオフィスを起点としたETRMソリューションはほとんどなく、先進的な企業はバックオフィスを起点とし、フロントオフィスまでの道筋を構築しながら価値を実現しようとしています。
- 業務分析(プランニング)、財務、リスク(予測、市場コミュニケーション、トレーディングのためのコマーシャルオペレーション)などの、サイロをひとつにまとめることです。単一化されたなシステムではなく、モジュール式のソリューションを活用することで、サイロを一つの傘の下にまとめる必要があります。このようにEnd to Endの豊富な実績は、エネルギー市場を扱うという組織目標を実現するための具体的な利点を提供します。また、再生可能エネルギーの資産投資家から既存の電力卸売市場参加者までをカバーすることができます。
- エネルギー取引業者やアナリストが、エネルギー市場の変動を予測し、リスクを認識するために使用可能なデータを通じて、市場インテリジェンスを活用することです。風力や太陽光などの断続的な再生可能エネルギーには短期的な変動がつきもので、予測はこれまで以上に重要となります。単一のプラットフォーム上でエネルギーデータの履歴、リアルタイム、予測にアクセスすることで、ユーザーはデータ集約と分析が簡素化されます。
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